涼しい風が吹き始め、いよいよ運動会のシーズンがやってきました。 お弁当の準備やカメラの充電をしながら、「今年はかけっこで何位になれるかな」「ダンスは間違えずに踊れるかな」と、保護者の皆様も期待に胸を膨らませていることと思います。
しかし、教員として毎年子供たちの姿を一番近くで見ていると、運動会の本当の価値は「当日の勝ち負け」や「見栄えの良さ」にはないことを強く実感します。 運動会は、子供たちの心と社会性が劇的に成長するチャンスです。今回からの連載では、学校現場で子供たちが実際にどう育っているのかというリアルな姿と、その成長をご家庭でさらに伸ばすためのヒントをお伝えしていきます。
「先生に言われたから」を越える、自発的な責任感
運動会の練習を通して、子供たちは日常の授業ではなかなか得られない大きな成長を遂げます。その代表的なものが「自ら考え、動く」というリーダーシップと責任感の芽生えです。
私の学校には「応援団」や「団リーダー」という役割があります。彼らの仕事は、ただ大きな声で応援するだけではありません。自分たちの団の学年の子たちがスムーズに入退場できているかを見届けたり、どうすればもっとチームがまとまるかを話し合ったりと、見えないところで全体を支える責任を担っています。
これらの役割に立候補できる子供たちの根底にあるのは、「先生に言われたからやる」のではなく、「やりたい!」という強い思いです。だからこそ、自分たちで考え、仲間に声をかけていくうちに、顔つきが驚くほど頼もしく変わっていきます。この「誰かのために自分の役割を全うする」という経験は、子供の心に強烈な自信と自己肯定感を育みます。当日の立派な姿の裏には、こうした「見えない責任感」の積み重ねがあるのです。
特に運動会は、子供にとって「やるべきこと」のイメージが持ちやすかったり、学校全体に勢いがあったりするため、自分の行動が仲間に良い影響を与えやすい行事です。もし、お子さんが団リーダーや応援団に関心を持っていたら、ぜひ力強く背中を押してあげてほしいと思います。
得意・不得意を超えて「仲間を認める心」が育つ
運動会には、足が速い子もいれば、走るのが苦手な子、ダンスを覚えるのに時間がかかる子など、様々な個性を持った子供たちが参加します。
クラス全員で取り組む団体競技やリレーでは、自分一人が頑張れば勝てるわけではありません。そこで子供たちは、大きな壁にぶつかり、そして見事にそれを乗り越えていきます。
初めは、誰かがミスをすると責めてしまう子もいます。その結果、ミスをした子が萎縮してしまい、さらにうまくいかなくなることも珍しくありません。そんなとき、教員が声をかけたり、団リーダーが声をかけたりしながら、「誰かを責めるのではなく、一緒に前向きにやれる方法を考えよう」と導いていきます。
すると、「こうやったらもっと速くパスできるよ!」と前向きな作戦をみんなで話し合う姿や、走るのが苦手な子が一生懸命にバトンを繋いだ時に「〇〇ちゃん、すごく頑張って走ってたね!」とその努力を真っ先に見つけて讃える姿が見られるようになります。
子供たちはこの経験を通して、「認め合うことが、良い結果にも良い雰囲気にも繋がる」ということを実感していくことができます。ただ勝つことだけを目的にするのではなく、仲間の頑張りに気づき、互いの存在を認め合える集団へと成長していく過程は、何度見ても胸が熱くなります。運動会は、子供たちに「思いやり」と「他者への貢献(誰かの役に立つ喜び)」を教える、最高の生きた教材なのです。
親の視点を「結果」から「プロセス」へ
徒競走で1位になることや、ダンスをノーミスで踊ることは、確かに素晴らしいことです。しかし、もし仮にリレーで抜かされてしまったり、ダンスで少し間違えてしまったりしたとしても、その子が練習を通して身につけた「仲間を思いやる心」や「最後まで諦めない粘り強さ」の価値が消えるわけではありません。
私たち大人が「1位になれたか」「上手にできたか」という結果ばかりに目を向けてしまうと、子供もまた「結果を出さないと価値がないんだ」と感じてしまいます。
そうではなく、「毎日クタクタになるまで練習を頑張ったこと」「友達と力を合わせたこと」というプロセスそのものに価値があると伝えてあげてください。
「毎日汗だくになって練習頑張ってるね!」 「あなたが下級生をまとめてくれたから、みんな安心して練習できたと思うよ」
そんな風に、結果が出る前の「今、頑張っている姿」を温かく認めてあげることが、子供たちの心をさらに大きく育てていきます。
次回予告:運動会が「苦しい子」へのケア
このように大きく成長する子がいる一方で、保護者の皆様にぜひ知っておいていただきたい、もう一つの現実があります。 それは、「運動会の練習が、大きなストレスになってしまう子もいる」ということです。 次回、【第2回】「練習がしんどい…」集団行動が苦しい子に親ができる最大のサポート では、運動会特有の全体行動やプレッシャーに困り感を持っている子供たちのSOSと、ご家庭でできる心休まるケアの方法についてお話しします。

